第5章 その一瞬を切りとる君 【ハイキュー!! 宮侑】
(……あいつが欲しいのが、私のチョコ?)
心臓がうるさい。
けれど、どうしてもあと一歩が出なかった。
「やっぱり無理!」と踵を返し、校門へ向かおうとしたその時、スマホが激しく震えた。
『緊急事態や。ツムが調子悪すぎて全く使いもんにならん。このままだと練習にならんから、責任取ってなんとかして。体育館裏で待機せよ』
「……っ、あのバカ!」
🌸はスマホを握りしめ、思わず天を仰いだ。
これじゃ、帰るに帰れない。
(……ほんま、手がかかるんやから!)
彼女は大きく一つ深呼吸をすると、逃げ出そうとしていた足を止め、夕日に染まる体育館の裏へと走り出した。
夕闇が迫る体育館の裏手。
冷たい冬の空気の中、侑は一人、コンクリートの壁を蹴っていた。
「……クソっ、なんであんな……。俺、何しとんねん」
サーブミス連発に、トスも自分の指先じゃないみたいに狂っていた。
監督から「頭冷やしてこい」と宣告され、コートから摘み出された情けなさが、胸の奥でドロドロと渦巻いている。
そこへ、パタパタと小走りの足音が近づいてきた。
「……侑くん」
「……え、自分!? なんで、まだおるん」
驚きで固まる侑の前に、肩で息を切らした🌸が立っていた。
彼女は少しだけ気まずそうに、けれど決意を固めた目で、スクールバッグから小さな、丁寧にラッピングされた箱を取り出した。
「これ……さっき渡せなかったやつ。はい」
「……え、これ……。お土産のクッキーじゃなくて?」
「違うよ。……チョコ。私が、昨日の夜に作ったんやから」
侑の動きが止まった。
信じられないものを見るように、震える手でその箱を受け取る。
「……なんで、今更。自分、クッキーで十分やって……」
「……あんなに山ほど貰ってるの見たら、出しにくかったんよ! でも……」
🌸は侑の目をまっすぐに見つめた。