第5章 その一瞬を切りとる君 【ハイキュー!! 宮侑】
一方、廊下を曲がったところで、🌸は小さく息を吐いた。
彼女のスクールバッグの奥底には、実はクッキー缶とは別に、丁寧にラッピングされた小さな袋が入っていた。
中身は、昨日、撮影の設定を考える時間も削って作った手作りのチョコだ。
(……あんなに山ほどもらってるの、見ちゃったらねぇ)
さっきも見た侑の周りの人だかりと可愛らしい紙袋の山。
それに比べて、自分の渡そうとしていたものはあまりに素朴で、なんだか急に場違いな気がしてしまったのだ。
「……これは、ウチの夜食にしよ」
少しだけ胸がチクリとしたけれど、それを振り切るように彼女は歩き出した。
部室からは、クッキーの取り合いで騒ぐ侑たちの賑やかな声が聞こえていた。
放課後の昇降口。
「あー、やっと帰れる……」と独り言を漏らしながら靴を履き替えていた🌸だったが、不意に背後に気配を感じて肩を跳ねさせた。
「……自分、それ渡さへんの?」
「わっ!? ……治くん? びっくりした、まだ部活行かないの?」
いつの間にか横に立っていた治の視線は、🌸のスクールバッグの隙間から覗く、見慣れないラッピングの箱に注がれていた。
「それ。ツムに用意してたんやろ。……なんや、クッキーだけやなかったんや」
「あ、いや……これはその、自分用っていうか! ほら、侑くんあんなにいっぱい貰ってたし、私のなんて今更かなって……」
慌ててバッグを抱え直す🌸を、治は少しだけ呆れたような、けれどどこか優しい目で見つめた。
「自分、ほんまに『オタク』の時はあんなに図太いのに、こういう時はヘタレやなぁ」
「ヘタレって言わないでよ!」
「ええか、よう聞けよ。あいつ、今日一日中ずっと死んだ魚みたいな目ぇしとったで。ファンからチョコ貰えば貰うほど、『これちゃう……俺が欲しいのはこれやない……』ってオーラ出しとるんや。……あいつがほんまに欲しいんが誰からのチョコか、自分、わかっとるやろ?」
治はポン、と🌸の肩を叩いた。
「せっかく作ったんなら、放り投げてでも渡してき。……ほな、俺は先行っとくわ」
そう言い残して、治はひょいひょいと体育館の方へ歩いていった。
一人残された🌸は、バッグの中の小さな箱を握りしめる。