第5章 その一瞬を切りとる君 【ハイキュー!! 宮侑】
彼女はカメラのモニターを侑に見せた。
そこには、負けて膝をつく侑の姿ではなく、最後の一瞬までボールを追い、指先まで神経を尖らせてトスを上げようとする、鬼気迫る表情の侑が写っていた。
「言ったやろ。一秒たりとも同じ表情はないんやから、立ち止まってる暇はないって。……今日の侑くんたちは、パークのどのショーよりも、どの推しよりも輝いてたよ」
彼女の瞳には、同情なんて一滴もなかった。
あるのは、一人のカメラマンとして、最高の被写体を記録できたという純粋な敬意だけだ。
「……記録、したからね。あんたたちがここで戦ったこと、最後の一秒まで。……これは私の『一生もんの収穫』やわ」
その言葉に、侑の目から堪えていたものが溢れ出した。
ぐしゃぐしゃに顔を歪めて泣く侑の姿を、🌸はもう一度だけ、静かにシャッターに収めた。
「……あかんわ。自分には、ほんま……勝たれへん」
「当たり前やん。私、世界一のオタクやからね」
「……来年や。来年は絶対、てっぺん獲って、最高の一枚撮らせたるからな」
赤く腫らした目のまま、侑は震える拳を🌸へと突き出した。
宣言というよりは、自分自身への誓い。
その熱を真正面から受け止めた🌸は、いつもの不敵な笑みを浮かべ、迷うことなく自分の拳をそこに合わせた。
「ええよ。約束や。……そん時は、今日よりずっといいレンズ新調して待っとるから」
乾いたグータッチの音が、静まり返った会場の片隅で静かに響いた。
三年生が引退し、稲荷崎高校バレー部は新体制へと移行した。
キャプテンという重責を背負った侑は、これまでの「ワガママな天才」から、少しずつ「チームを背負う男」へと変わりつつあった。
練習試合の最中。
体育館のギャラリーの隅に、カメラを持たずに静かに佇む🌸の姿があった。
(……侑くん、顔つき変わったな)
レンズ越しではなく、肉眼で見るその姿。
必死に声を張り上げ、後輩を鼓舞し、誰よりも泥臭くボールを追う。
パークでのあの日、ゾンビの動きを「バレーに活かせる」と笑っていた男が、今は本気で新しい稲荷崎を創ろうとしている。
彼女は、その光景をあえて記録しなかった。
今この瞬間は、いつか撮る「最高の一枚」のための、大切な伏線なのだと確信していたから。
つづく