第5章 その一瞬を切りとる君 【ハイキュー!! 宮侑】
オレンジ色のコート。
降り注ぐ歓声と、それ以上に重くのしかかる静寂。
誰もが稲荷崎の勝利を疑っていなかった。
最強の挑戦者、インターハイ準優勝校。
その肩書きが、音を立てて崩れ去る瞬間を、東京の体育館は残酷に照らし出していた。
最後の一点。
侑の手から離れたボールが、治の手に吸い込まれるように向かい、それをスパイクすると相手のブロックに阻まれ、自陣のコートにボールが落ちたーー。
審判の笛が鳴り響き、長い冬が終わった。
「……っ、あ……」
侑は立ち上がれなかった。
視界が滲み、コートの床だけがやけに鮮明に見える。
3年生にとっては最後の試合。
悔しさ、情念、喪失感。
それらがごちゃ混ぜになって、喉の奥が熱い。
その時、観客席の最前列に、見覚えのある「大砲」のようなレンズが見えた。
彼女は、いつもパークでゾンビやキャラクターを追いかけている時と同じ、あの真剣な眼差しでファインダーを覗き込んでいた。
泣いている者はいないか、誰が立ち尽くしているか。
そのすべてを、彼女は逃さなかった。
試合後、会場の片隅で、侑たちは放心状態のまま荷物をまとめていた。
そこへ、大きなリュックを背負った🌸が歩み寄ってくる。
かける言葉が見つからない。
そんな空気の中、彼女は静かに口を開いた。
「……侑くん。治くん。みんな、お疲れ様」
その声は、驚くほど穏やかだった。
「……自分、撮ったんか。俺らの、こんな……無様なとこ」
侑が掠れた声で問う。
完璧な勝利を撮らせると約束したのに。
世界で一番男前な瞬間を見せると豪語したのに。
現実はあまりに無情だった。
けれど、🌸は首を振った。
「無様なんて思わんよ。……最っ高にかっこよかった」