第12章 別れてから
雫side
別れてから、雫はいつも通り学校に来ていた。
笑う時は笑って、頼まれた仕事もこなして、周りから見れば何も変わっていないように見えた。
でも、大輝がいないだけで、世界は少しずつ歪んでいた。
放課後、無意識に歩く道が体育館の方へ向いて、途中で立ち止まる。
もう行かない場所なのに、足が覚えてしまっていた。
「今のお前、邪魔なんだよ」
あの言葉は、時間が経っても薄れなかった。
怒鳴られたわけじゃない。
責められたわけでもない。
ただ、感情がぶつけられただけなのに、その分、深く残った。
「俺のこと、どうでもいいだろ」
あの時、否定したかった。
どうでもよくなんかないって、声が枯れるまで言いたかった。
でも、言えなかった。
それを言ったら、もっと遠くに行ってしまいそうで。
だから、黙った。
それが別れになった。
夜になると、ふと考えてしまう。
もしかして、嫌われたんじゃないんじゃないか。
もしかして、大輝は逃げたかっただけなんじゃないか。
そんな考えが浮かんで、すぐに打ち消す。
考えても意味がない。
言われた言葉は、確かにそこにあった。
どんな理由があっても、消えるものじゃない。
それでも。
眠る前、目を閉じると浮かぶのは、冷たい背中じゃなくて。
笑っていた顔。
バスケをしていた時の目。
名前を呼ぶ声。
思い出すたび、胸がきゅっと縮む。
好きだった。
今も、完全に嫌いにはなれていない。
でも、戻りたいとも言えなかった。
あの言葉を聞いた自分は、もう前みたいに笑えないと分かっていたから。
だから雫は、何も言わないことを選んだ。
忘れたふりをして、前に進くふりをして。
それでも時々、心の奥で思ってしまう。
あの時、「嫌いになったの?」って聞かなければよかったのかな、と。
答えが怖かったくせに、聞いてしまった自分を、少しだけ責めながら。
雫は今日も、何事もなかったように一日を終える。
大輝のいない日常に、少しずつ慣れながら。
でも、忘れることはないまま。