第11章 決別、そして別れ。
「来たぜ」
夕焼けのコートに、大輝が立っていた。
私が、メールで呼び出した相手。
「……バスケしよ」
「は?急になんだよ。なんで今さら、バスケなんかすんだよ」
「“俺に勝てるのは俺だけ”って、前に言ってたよね」
ボールを抱えたまま、まっすぐ見る。
「でもさ。まだ私にも、ちゃんと勝ってないのに。それ言えるの、不思議だなって思って」
「はぁ?」
大輝が、鼻で笑う。
「お前なんか、とっくに超えてるに決まってんだろ。バカか?」
胸が、少し痛んだ。
「……もう、名前ですら呼んでくれないんだ」
「悲しいよ」
そう言って、私はボールを投げた。
「10本先取でいい?」
構える。
大輝も、無言で応じた。
⸻
試合は、拮抗した。
中盤。
5対4。
私が決めて、5対5。
その瞬間だった。
世界が、一気に加速した。
視界が研ぎ澄まされ、体が、勝手に動く。
――ゾーン。
酸素が少ない。
関節が、悲鳴を上げる。
それでも、止まれない。
5対9。
あと、一本。
……その時。
弾かれた。
ボールが、空を切る。
「……っ」
「雫……」
見上げた先。
大輝の目も、同じ色をしていた。
――ゾーン。
瞬く間に、10点を取られた。
試合終了。
「……やっぱり」
大輝が、低く呟く。
「俺に勝てるのは、俺だけだ」
悲しくて、笑ってしまった。
「……ゾーン、入っちゃったんだね」
声が、震える。
「今の大輝を止めたくて、この勝負をした。でも……無理だったみたい」
息が、苦しい。
「……私、もう体、限界だよ」
沈黙。
夕焼けの音だけが、コートに落ちる。
しばらくして、私は言った。
「……大輝。別れよう」
視線を、逸らさずに。
「今の大輝、私は……好きじゃない」
一瞬、何かが揺れた。
でも、大輝は笑った。
「……いいぜ。分かった。別れようぜ、俺たち」
「さよなら、青峰くん。」
それだけだった。
泣かなかった。
叫ばなかった。
ただ、私たちは終わった。