第9章 壊れていく心情
「話とはなんだ、茶郷さん」
私は、さっきの監督の言葉を思い出していた。
この人なら、と思った。
「……監督みたいな大人が居れば、大輝は大丈夫だと思います。大輝は、しっかりしてます。でも、まだ中学二年生です。心の成長が、追いついていません」
私は頭を下げた。
「だから……どうか、青峰大輝のことをよろしくお願いします」
監督は、迷いなく答えた。
「ああ、もちろんだ。なんなら私は、このチームで一番、青峰を信じている」
その言葉を聞いて、胸の奥がじんわり温かくなった。
「……ありがとうございます。安心しました」
この人なら。
この人がいれば、大輝は歪まずに進める。
私は、そう確信していた。
しばらくして、試合が再開された。
結果は――余裕の勝利。
帝光中学校、全国制覇。
歓声の中、私はふと大輝を見る。
輪の中心にはいなかった。
少し離れた場所で、一人、立っている。
でも――
キャプテンが近づき、大輝の頭をぽん、と叩いて何かを話した。
その瞬間、大輝の目に、ほんの少しだけ光が戻った。
……大丈夫。
虹村さんも、本当に良いキャプテンだ。
大輝は、きっと大丈夫。
私のようには、ならない。
直感的に、そう思った。
なんだかんだ言っても、やっぱり勝ったのは嬉しいみたいで。
そのあと、みんなで祝勝会に行った。
そして数日後――
監督が倒れた、という報告が入った。
復帰は、もうないらしい。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が、すとんと冷えた。
あの人がいたから、大輝は踏みとどまれていた。
あの人がいたから、私は「大丈夫だ」と思えていた。
けれど、その支えは、あまりにもあっけなく失われた。
それを境に――
みんなの成長速度は、異常なものになった。
止める人はいない。
疑問を投げかける人もいない。
ただ勝つためだけに、ただ強くなるためだけに、才能が、暴走し始めた。
そして私は、はっきりと感じていた。
――これはもう、取り返しがつかないところまで来ている、と。