第9章 壊れていく心情
全国大会決勝。
コートに重たい空気が流れる中、10分間のインターバルが告げられた。
「青峰、少しここに残れ」
「雫も、いいなら」
そう言われ、私は大輝と一緒に監督の前に立った。
しばらく沈黙が続いたあと、監督は静かに口を開いた。
「……私は、お前に謝らねばならん」
大輝が、わずかに眉を動かす。
「お前がとてつもない才能を秘めていることには、すぐに気づいた。誰よりもバスケットを愛していることにもな」
監督は視線を落としたまま続ける。
「そして、その才能が開花すれば、今のようになるであろうことにもだ」
「……」
「気づいていながら、私は何も言わなかった」
私は思わず口を開いた。
「監督……それは、言えなかったのではないですか?」
監督は小さく息を吐いた。
「……そうだ」
「お前の気持ちより、その才能が開いた“先”を見たいという感情が、勝ってしまった」
「だから謝る」
そう言って、監督は大輝を真っ直ぐ見た。
「そして、頼む。その才能を、無駄にしないでほしい」
「……え?」
大輝が戸惑った声を漏らす。
「お前の悩みは、すぐに解決できるものではない。だが、いつか解決できるかもしれん。投げ出すな。諦めなければ必ず、とは言わん。だが、諦めたら――何も残らん」
「……なっ!?」
その言葉に、私は息をのんだ。
「そのセリフ……」
大輝が驚いたように言う。
「……テツに、言ったやつだ」
監督は少しだけ口元を緩めた。
「うむ。パクった」
「聞いてたってことっスか……」
大輝はしばらく黙ってから、小さく笑った。
「……はぁ。分かりましたよ。今さら、元に戻れるとも思ってねぇ、それでも……まだ、勝ちたいって気持ちは残ってる」
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなった。
「大輝」
私は一歩前に出た。
「休憩、行ってきて。私、監督と少し話したい」
「……あぁ」
そう言って、大輝は控え室へ向かった。