第2章 痛みの始まり
部屋の前に戻ると、中から声が聞こえた。
誰かと電話でもしているんだろう。
襖の前で電話が終わるのを待っていた。
だが、誰かが来て、慌てて部屋の中に入る。
婚約者を部屋から追い出して電話してるなんて風に思われたら、面倒だと思った。
輪っかになっている黒い布を指先でクルクル回しながら、こちらを睨んでいる。
その綺麗な顔で綺麗な瞳で睨まれると、あまりの迫力に後退りしてしまう。
ずっと電話をしていた。
「硝子さ、僕のことなんだと思ってんの。
ちゃんと優しくしてるって〜」
女の人…。
襖に額をつけて、出来るだけ存在感を薄くした。
それでも、話し声が聞こえなくなると、婚約者は話し相手を私に変えたようだ。
「ねぇ……ねぇってば。
寝ないの?」
「ね、寝ます…」
「じゃあ早くおいでよ」
柔らかい声なのに、どこか冷たかった。
恐る恐る近付き、布団の上に座る。
それを見た婚約者は横になり、布団を私の身体を巻き込んで掛ける。
そのまま倒れると、頭が腕に乗った。
体勢を変えて、背中を向けて目を瞑る。
「お、おやすみなさい…」
「ん、おやすみ」
冷たいのか優しいのかわからなかった。