第3章 脹相の場合
「昔からよく聞いたな。風邪にはネギが効くとか生姜が効くとか。結局のところ人にうつすと治るのが一番早いとか」
「ネギを首に巻くとかですか?おばあちゃんの豆知識みたいなやつですよね~。それに人にうつすっていうのは確かに早い気がします」
「そうなのか?俺は風邪をあまり引いたことが無いから分からないが、じゃあ茉奈の風邪を俺が引き受けよう」
どうやって???
と首を傾げた茉奈に脹相は衝撃的な一言を放ち口に含んだスポドリを勢いよく噴き出した。
「どうやらキスというものでうつると聞いた」
「ぶふぅぅぅう!!」
「大丈夫か!?」
慌ててティッシュを渡され左手で受取り、右手で心配する脹相を制する。
何を言い出すんだ。スポドリに溺れ死ぬところだった。
机を拭きながら茉奈は脹相の無意識な翻弄に意識が遠のきそうになりそうだ。
「あとは寝るだけなので脹相さんも帰って貰って大丈夫です。わざわざお見舞いありがとうございました、虎杖先輩にもお伝えください」
「分かった。じゃあとりあえず布団に入れ」
言うや否や茉奈を抱えてベッドへと連れて行く脹相。
お姫様抱っこなど生まれてこの方されたことがない経験に加えて、相変わらず表情の変わらない整った顔が間近にあり慌てふためく茉奈。
動いたせいで血圧が上がり顔が赤くなったのだろう、それをみて脹相は呆れたような息を吐いた。その姿は暴れる妹を諫める兄のようだ。
どれだけ自分で歩ける、下ろしてくれとと暴れてもびくともしない体幹に羨ましいと一瞬思ってしまった。
「暴れると熱が上がるぞ。言ってる傍から先程より顔が赤くなってるだろう。俺にさっさと風邪を渡すんだ」
柔らかなベッドに下ろされた茉奈の額にキスが一つ落とされる。
呆気に取られた茉奈に、これじゃないのか?と脹相が眉根を寄せる。
例え唇にキスをしたとしても、瞬く間に風邪がうつるはすなどない。
「…ありがとう。脹相さんが風邪を引きとってくれたみたいです、少し楽になりました」
そう言うと納得したのか脹相は頷き「また明日来る」と机の上の鍵を取り部屋を出て行った。
ガチャンとかけられた錠の音とともに茉奈は安堵とともに眠りへと落ちて行った。