第8章 白銀の世界に
私は最近、アキの袖を掴むことが増えた。
そこにあるはずの温もりがなくて、中身が空の袖ばかりを必死に握る。
胸が痛くなるのがわかっているのに、手が勝手に求めていた。
アキの背中に自身の背中を合わせて、そっと袖を掴む。
背中は温かいのに、手は冷たかった。
「アキ…時間が止まればいいのにね」
本当は過去に戻りたかった。
あの寒空の下の喪失の日に。
「アキはタイヨウと……ごめん、なんでもない」
あの日に近付く。
心は着実にあの日に戻っていく。
アキの弟タイヨウは、あの日から一度も昇ることはない。
目の前で闇に飲み込まれたのだから。
沈黙を貫いていたアキが音を零した。
「過去には戻れない。
今は結那がいる。
俺はそれだけでいい」
その言葉の裏に隠した寂しさは知っていた。
手紙を畳んで振り向いたアキに、キスをされた。
キスもセックスも嬉しいのに、この関係に名前がつくことはない。
私はアキの最期に、どんな存在でいられるんだろう。