第6章 壊れないもの
「ふふ。アキ、擽ったいよ」
アキを背中に湯船に浸かっていると、肩に顎を置いたアキの息が耳にかかる。
揶揄うように今度は意図的に吹きかけてきた。
「ふっ…結那。結那」
甘く掠れた低い声で名前を呼んでくる。
唇はほとんど耳に触れていた。
アキに触れられるのは気持ちいい。
だけど…ふと考えてしまう。
もし私が"マキマさん"なら、どんな風に愛されたのか…。
アキは、マキマさんのどんなところが好きなんだろう。
聞くことはしなかった。
私からアキの声で、"マキマさん"と言わせたくなかったから。
いや、聞きたくない、そんなの。
「……結那、こっち向け」
頬を引かれて振り向かせられる。
目を閉じたアキが、口付けた。
唇が離れると、ふっと笑う。
「俺は…結那がいれば、"早川アキ"でいられる」
「……ん、私も」
胸の奥をこじ開けられた感覚がした。
私は…早川アキがいれば、生きてゆける。
アキという存在そのものに、全てが惹き付けられる。
アキじゃないとダメ。
似てる誰かでもダメ。
アキがアキだから、私は好きになった。
そして、好きでいられる。これからも。
顔を元に戻して、揺れる水面を見つめる。
お湯の温度が上がった気がした。
アキとなら――どこまでも落ちていける。
二人で生き、終わりたい。
私の寿命をあげられたらいいのに__。
想いは水面で波紋を作り、広がっていく。
そして、淡く溶けた。