第5章 内側に隠した鈍痛
みんなが仕事に行った。
慌ただしかった部屋が途端に寂しくなる。
姫野さんを起こさないように家事を熟していった。
ベランダに服を干してリビングに戻ると姫野さんは起きていて、ボーッと座っていた。
「おはようございます」
「……おはよ〜」
少しすると覚醒したのか、トイレに行くと言ったので、ついでに顔も洗ってくるよう促す。
「結那ちゃん〜、煙草吸っていい?」
「あ、はい。
えっと…アキはいつもベランダで吸ってます」
ベランダに案内し、アキがいつも使っている椅子とテーブルに行かせる。
姫野さんが吸っている煙草は、アキと同じ銘柄だった。
アキは、この人に特別な感情を持っている。
それが恋とは違うものでも、大切なものなのだろう。
二人の関係は知らないままでいい。
姫野さんが煙草を吸っている間、私は掃除機をかけて珈琲の準備をした。
アキは綺麗好きだ。
掃除は一瞬で終わってしまった。
リビングに戻ってきた姫野さんはテーブルの近くに座り、私の名前を呼んだ。
淹れた珈琲が入ったカップを持って姫野さんの前に置き、私も座る。
「結那ちゃんさ、アキくんのこと好きだよね。
幼馴染って言ってたから、付き合ってはないんだろうけど…アキくんも、何か特別な感情があるみたい」
「わ、私はそうですけど…アキは知りません。
マキマさんという方が好きらしいですし…」
この人は何が言いたいんだろう…"私も好きだから、手を出すな"とか?
でもそれは、次の姫野さんの発言で、見当違いだと気付いた。
「私、アキくんには死んで欲しくないんだ。
私が死んだ時、泣いて欲しいから__
あ、それと…マキマさんはなんか嫌な感じがするから、会わない方がいいよ」
「…どうしてですか?」
「私とは合わないんだよね〜
嫌悪感があるというか…
とにかく、私は結那ちゃん気に入ったからさ!
アキくんの大切な人でもあるし!」
アキの大切な人…?
それはマキマさんじゃ…首を傾げて姫野さんを見たが、なんの疑いもない表情をしていた。
珈琲を飲み干した姫野さんは、そのまま帰っていった。