Feline Journey( ONE PIECE )
第1章 🐾
ようやく、陸が見えた。
どこにたどり着いたかもわからなかった。
は最後の力を振り絞り、浮木から島の浜辺へ飛び移る。
波打ち際で、人の姿に戻った。
体は潮風でベタベタ、髪は塩で固まり、服は破れてぼろぼろ。
でも、それより何より、酷くお腹が空いていた。
胃が痛いほどに鳴る。
いい匂いにつられて、浜辺から少し離れた街へ。
小さな酒屋の扉を開けると、中はまだ開店前らしく静かだった。
「まだ準備中だよ」
カウンターの向こうから、穏やかな声。
マスターは振り返り、の姿を見て、目を丸くした。
ぼろぼろの服、塩まみれの髪、青白い顔。
「……お嬢ちゃん、大丈夫か? とりあえず座りな。」
マスターはすぐに厨房へ入り、簡単なスープとパンを出してくれた。
温かいスープの匂いが、の鼻をくすぐる。
涙が出そうになるのを堪え、ゆっくりと口に運ぶ。
生きている実感が、ようやく戻ってきた。
マスターは踏み込みすぎない程度に、色々聞いてくれた。
「どこから来たんだ?」
「船が沈んで……漂流して。」
「家族は?」
「……いない。」
素性を明かさないまま、は小さく答える。
マスターは深く追及せず、ただ頷いた。
「宿がないってんなら、ここで住み込みで働くといい。」
突然の言葉に、はスープを飲む手を止めた。
「え……?」
「この店、一人じゃ回しきれないところもあるんだ。
お前さん、目がしっかりしてる。
働いてくれりゃ、住むところも食事も出すよ」
素性もわからない小娘に、そんなことを言ってくれる。
マスターはお人好しだ。
は小さく頷いた。
「……ありがとうございます。」
それからはこの酒屋で働くようになった。
この街に、長く留まっている理由。
それは、このマスターの存在だ。
拾ってくれた恩。 温かな居場所。
父の土産話を思い出すような、穏やかな日常。
カウンターを拭きながら、は静かに思う。
――マスターに恩返しできるまでは、この街に。
窓の外、海は穏やかに輝いている。
新しい朝が、ゆっくりと訪れていた。