第4章 『やくそく』
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「わざとだろ」
一通りの検査を終えたあと。
簡易ベッドの縁に腰掛けシャツに袖を通している私に、硝子さんは淡々とそう言った。
消毒薬の匂いが残る医務室。白い床に反射した照明が、やけに目に痛い。
「……何のことですか」
視線を落としたままシャツのボタンを留める。
指先が僅かに震えて、上手く穴に通らなかった。
「自分の身体を呪ったことだよ。ああ…正確には術式を付与したってとこだろうけど」
────── カツン
ヒールが床を打つ乾いた音が、静かな室内に響く。
気づけば私の身体は影に包まれ、照明の眩しさは硝子さんの背中に遮られていた。
「……わざとじゃ、ないです」
「アンタ、それで誤魔化せると思ってる?」
「…」
返す言葉が見つからず、口を噤む。
そんな私を見た硝子さんは深く息を吐くと、私の頭に手を伸ばし、少し乱暴にくしゃりと撫でた。
「それじゃ五条に気づかれるのも時間の問題だぞ」
その名前を出されただけで心臓がきゅっと縮む。
きっと硝子さんは、五条さんに告げ口なんてしない。
それでも——助けに来てくれた五条さんに隠し事をしている、その事実がずっと胸に刺さっていた。
「伏黒の姉のことは私も見た。あれは術者をやらなきゃ解けないタイプだ」
「………それなら尚更、」
思わず声が零れた。
私の考えは、あの病院を出た時から何一つ変わっていない。
「たくさん祓えば祓うほど…津美紀ちゃんが助かるかも、って思うんです」
誤魔化しなんてどうでも良くなっていた。
私は津美紀ちゃんを救ってみせる。今は、その気持ちが何よりも1番だから。
「だからって自分の身体を犠牲にしようとするのを、私は容認できない」
硝子さんの声が、僅かに低くなる。
その優しさを無下にしたくはない。けれど私は、自分の身体よりも津美紀ちゃんを優先したい。
……だから。
「…少し痛いのを我慢するだけで強くなれるなら、私は何回でもそうします」
意識が戻った時。
腹の奥で何かが蠢き、酷い痛みに襲われた。
でも治し方はもう分かったし、次は気絶なんて馬鹿な真似は絶対にしない。