第4章 『やくそく』
「…五条さん、来てたんですか」
振り返るとそこには恵が立っていた。
軽い擦り傷はあるものの、呼吸は安定している。
「おっ、こっちはピンピンしてるね〜」
軽く手を振って応えるが、恵の視線は僕を通り越し、地面から滞留する空気へと鋭く滑った。
一瞬、恵の眉間に深い皺が刻まれる。
「この残穢、のですよね」
その声は低く、確信に近い響きを帯びていた。
視線は無意識のうちに、が去っていった方向を追っている。
(やっぱ分かるよな〜コレ。…の術式の件、上に掘られるとそろそろ誤魔化し聞かないし、)
どうしたものか、と思考を巡らせた瞬間、ふと、ひとつの考えが浮かんだ。
「あ、いいこと思いついた」
わざとらしく手を叩いて恵を見ると、恵は怪訝そうに眉をひそめる。
まるで今から僕がめんどくさい事を言いそうだ、とでも思っている顔。心外だな。
「恵、ちょっと訓練して帰ろ。術式使ってい〜よ。ほれほれ」
「はあ……?」
半歩距離を詰めると、恵は反射的に一歩後ずさった。
「……正気ですか」
「僕はいつだって大真面目だよ」
警戒と呆れがない交ぜになった恵の声。
それを聞いた僕は肩をすくめて言い返した。
この場に残ったの呪力をかき消すより──その痕跡を、上から別の呪力で雑に塗り潰す。
その方が楽だし、楽しそうだ。
(さっすが僕。今日も冴えてる)
ため息をつく恵を横目に、口角が上がる。
嫌そうにしつつも「やらない」と言わないところが、また恵らしくて。
「さて、いつでもいいよ」
「…本気でいいんですね」
「もちろん」
そうじゃなきゃ意味がない。
不服そうに吐き捨てた恵は手で型を組む。
直後、影絵から溢れ出した呪力から式神が現れ、地面に沈殿していたの残穢を少しづつ、徹底的に飲み込んでいった。