第4章 『やくそく』
現場付近で車を降り、呪霊を祓いながらその中心へ向かう。
不思議だったのは、呪霊が一般人や僕ら呪術師に毛ほども興味を示さなかったこと。
視線、殺意、執着。全てがただ一方向へ向けられている。
「邪魔」
呪霊と同じ方向へ、視界に入るものだけを淡々と祓いながら進むと、やがて壁のように重なり合った呪霊の群れが見えてきた。
おそらくその中───中心に、が居る。
「…五条さん!!」
呪霊を切り分けるように進んだ先で、を抱きかかえた補助監督の女が縋るように僕の名を呼んだ。
四方八方から押し寄せる呪霊は、の身体から無数に伸びる赤い繊維によって触れる前に散り散りにされていく。
「」
ぐったりとしたに近寄り名前を呼ぶが、返事はない。
無意識下で術式が発動している。無茶苦茶な呪力量だな。
「あのっ、あの……」
「……」
補助監督が何か言いかけながら、僕の服の裾を強く掴む。
見上げてくる瞳には、恐怖とは別の——もっと生々しい感情が滲んでいた。
「…ああ、そういうこと」
妙に納得した僕はその手を払い除け、の身体を持ち上げる。
お姫様抱っこなんて、いつぶりだろう。
そんなことを考える余裕はあるのに、補助監督へ向ける視線は、自分でも分かるくらい冷え切っていた。
「術師は慎重に使えよ。君と違って、この子の代わりが務まる人間は少ない」
「っ…、」
大方、僕に気があったんだろうけど。
スーツを着ていて呪霊が視認できているから補助監督だと思っただけで、僕はコイツの名前どころか顔すら覚えてない。
「が生きててよかったね」
「ひっ…!」
とはいえ、あくまでの防衛本能が優秀だったから生きているだけだ。
仮にここでの亡骸を見ていたら、僕はこの女に何をしたか分からない。
「、もう休んでていいよ」
そう声をかけてやると、眉間の皺が浅くなる。
全く、相も変わらず分かりやすくて助かるよ。
「後は僕が片付ける」
宙を舞っていた糸から呪力が抜け、の表情が穏やかになった、その瞬間。
僕は周囲の建物ごと、辺り一帯の呪霊を跡形もなく一掃した。