第4章 『やくそく』
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「東京の一部で呪霊が急増、ねぇ」
タブレット端末の画面に目を落としたまま、気の抜けた声が口から出た。
指先でスクロールしながら、術師が派遣された分布をざっとなぞる。
まあ、話だけ聞けばよくあることだ。
季節の変わり目、感情の揺れ、偶発的な偏り——説明はいくらでもつく。
「は、はい……。任務終わりに申し訳ないです……」
補助監督の声が、いつもよりわずかに硬い。
その微妙な引っかかりに、スクロールしていた指が止まった。
……かなり多いな。
しかも単なる"急増"じゃない。
術師の配置を見る限り、呪霊が湧いているというより——集まっている。
宿儺の指でも絡んでるか?
一瞬そう考えて、すぐに思考を切り替えた。
今はそこじゃない。
「ね。と恵、今なにしてるかわかる?」
手が空いているなら合流させるつもりだった。
もっとも、津美紀の件があって、あの二人が大人しくしていられるわけがないけど。
「あ……それなら、さっき共有がありました」
赤信号で車が止まる。
ブレーキの感触と同時に、補助監督が端末を操作した。
「伏黒くんは三級呪霊の討伐へ。さんは……」
「なに。どしたの」
「…」
補助監督が言葉に詰まっている。
それだけで、今のが置かれている状況は良くわかった。
「……その、呪霊が大量に湧き出ている件なのですが」
何となく、その後に続く言葉に想像がつく。
「その中心に、さんが配置されています」
「…なるほどね」
無意識に、指先へ力が籠もる。
端末の縁を掴む手が、わずかに軋んだ。
「呪霊が見えたら降りる。あと、出来れば硝子に派遣申請出しといて」
「は、はい……!」
その返事を聞きながら、内心で舌打ちする。
——やっぱり、嫌な予感って当たるんだよね。
フロントガラス越しに流れる街の景色を見つめながら、目の奥だけが静かに冷えていくのを自覚していた。