第4章 『やくそく』
私はただ、祓えばいい。
祓えば祓うほど、帰ったときに津美紀ちゃんが目を覚ましている確率が上がる。
——そう信じないと。
そうじゃないと、私はもう、立っていられなかった。
─── prrr
雑念をかき消すみたいに、電子音が車内に響く。
「……めぐみ、くん」
携帯のディスプレイに映った名前を認識して、
電話に出ようとスワイプしかけた指が、途中で止まった。
「さん、着きました!」
急かすように言われ、補助監督さんがシートベルトを外す。
それにつられて、私はふらつく足で車を降りた。
携帯は、車内に置いたまま。
『……ミテ。コッチ……ミテェ』
現場に足を踏み入れた、その瞬間。
どこからか、粘つく声が鼓膜に絡みついた。
(……はやく祓わないと)
そう思って振り向いた瞬間、視界が大きく揺れた。
地面が傾いたのか、自分が傾いたのか、分からない。
——あ。
ドサリという音と身体に鈍い感覚が走ったとき、やっと自分の身体の方がおかしくなっていることに気がついた。
繋ぎ止めていたものがほどけていくみたいに、赤い糸が指の間からするりと解け落ちる。
「…あ、れ……?」
背後に呪霊は居なかった。
幻聴、だったのだろうか。
「さん…!!」
私の名前を叫びながら、同時に焦った足音が駆けてくる。
「……津美紀、ちゃん……」
どうか、どうか目を覚ましていて。
その願いを胸の奥で握りしめたまま、祈るように目を閉じると、意識は静かに暗転した。