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【呪術廻戦】呪いの嫁入

第4章 『やくそく』


───

──────

沢山の呪霊を祓った。


地面には黒く溶けた呪力の残穢が散らばっている。


もう、自分がどれだけ祓ったのか分からない。
分かろうとする気力も、いつの間にか失せていた。


「はぁっ…、」


呪力の使いすぎだろうか。
視界の端が滲み、色が溶けるみたいに輪郭を失っていく。

遠くの景色と近くの景色の境目が曖昧になる。
焦点が合わないのに、瞬きすることすら億劫だった。

それでも、目の前で蠢く呪霊の影だけは、異様なほどはっきり見えていた。


『マ、マ〜ァ』


耳の奥に直接流し込まれるような濁った声は、脳を直接撫でられるみたいな不快感を与えてくる。


——大きい。
体躯も、纏う呪力の圧も、今まで相手にしてきたものとは明らかに違う。


近づくだけで皮膚がひりつき、呼吸をするたび、肺の奥が重く軋んだ。


……いや。今はそんなこと、どうでもいい。


「ごめんね。時間がないの」


自分の口から零れた声は、疲労とは不釣り合いなほど静かで落ち着いていた。


一本、また一本。
服の隙間から綻ぶ赤い糸が、意思を持つみたいに伸びていく。

そこに術式を付与して、絡めて、縛って、締める。
引き絞るたび、糸が淡く光り、呪霊の輪郭が歪んでいく。


思考は追いつかないのに、身体がしっかりと動いているのが気持ち悪かった。


「さん! 付近で二級呪霊が——」
「行きます」


言葉を最後まで聞く前に、声が出た。

次から次へと湧き出る呪霊の報告に、胃の奥がひっくり返りそうになる。


何度も、何度も。
祓って、祓って、祓い続けた。


糸を伸ばして、締めて、祓って。
息が乱れて足元が覚束なくなっても、止まらない。


───止まったら、最悪の未来ばかり考えてしまうから。


「……次、連れてってください」


自分の声がやけに遠く聞こえた。

まるで、別の誰かが喋っているみたいに。
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