第3章 交錯する想い
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「ご馳走様でした」
テーブルに並んでいたケーキは、後で来る硝子さん用に四つを残して食べきった。
イチゴのショートケーキに、ガトーショコラ、タルト。
1日経っていたけれど、どれもすごく美味しかった。
「この紅茶、上手かった」
「本当?……よかった」
それは私が淹れたものだった。
温度は少ししか気にしていなかったから、良い茶葉のおかげだろう。
ソファに並んで腰掛けて他愛もない話をしていると、任務のない休日の、いつもの日常の温度を思い出す。
──── 映画、見たくなるなぁ。
「なんか、映画見たくなるな」
「えっ」
まさか同じことを考えていたなんて。
驚いて思わず身体ごと恵くんの方へ向き直った瞬間、手にしていたソーサーが傾き、中の紅茶が私のズボンにこぼれた。
「何やってんだ…」
「…ご、ごめん……。同じこと考えてたの、嬉しくて」
恵くんは小さく息を吐いてテーブルの上のティッシュを取り、黙って私の服を拭き始める。
途中、恵くんは何かを思い出したように一瞬だけ動きを止め、顔を上げて私の表情を確かめるように見る。
だけど首を傾げる私を見て問題ないと思ったのか、安心したように視線を戻し、何事もなかったみたいに作業を続けた。
「……恵くん」
「なんだ」
呼びかけると、ティッシュを持つ手が一瞬だけ止まった。
「……ありがとう」
全部を込めて伝えると、恵くんは少しだけ眉を寄せ、視線を逸らす。
言葉を探すみたいに、唇がわずかに動いた。
「……礼を言われることなんて、してねぇ」
「してるよ」
今も、今までも。
「…そうか」
恵くんはそれ以上何も言わず、ただ静かに立ち上がって、空になったお皿を片付け始めた。
いつも通りの優しい時間——それだけが、今の私を生かしてくれていた。