第3章 交錯する想い
バスタオルに包まりながら、恵くんに促されてリビングへ向かった。
脱衣所を出た瞬間、
ひやりとした空気が肌を撫でて、思わず肩をすくめる。
それに気づいたのか、恵くんが目線だけをこちらに向けた。
「……寒いか」
「……ちょっとだけ」
リビングに入ると、恵くんは何も言わずにエアコンの設定を上げる。
その背中を見ていると、さっきまでの出来事が少しずつ遠のいていく気がした。
ほんの数分前まで呼吸をするのも苦しかったはずなのに。
恵くんと同じ部屋にいる、それだけで世界が静かに戻っていくのが不思議だった。
「……そこ、座れ」
ソファを指さされ、言われるまま腰を下ろす。
恵くんは脇に抱えていたドライヤーをコンセントに差し込み、私の背後に立った。
「乾かすぞ」
「……うん」
スイッチが入る音と同時に温かい風が後頭部に当たる。
さっきまで冷水に晒されていた身体にその熱がじんわりと染み込んできて、強張っていた筋肉が少しずつほどけていくのがわかった。
何も考えなくていい時間が、今はただ、ありがたい。
恵くんの指が、濡れた髪を梳く。
引っかからないように。
絡まないように。
必要以上に触れないように、それでいて雑にならないように。
その加減が、ひどく恵くんらしくて安心した。
「……大体乾いた」
「ありがとう」
ドライヤーの音が止まると部屋が急に静かになる。
「……傷、治るといいな」
少し距離を開けて隣に座った恵くんが、私の腕をちらりと見て言う。
視線は一瞬だったのに、そこに込められた感情だけは、はっきりと伝わってきた。
「……そう、だね」
我ながら歯切れの悪い返事。
自分でつけた傷を治してもらうのも変な話だし、硝子さんには余計な手間を掛けてしまうのが申し訳なかった。
「……ケーキ、食うか」
突然の提案に、恵くんの顔を見て首を傾げる。
すると恵くんは視線を天井へ逸らし、後頭部の髪を掻きながら、居心地悪そうに言った。
「五条さんに連絡したとき、冷蔵庫に入れてるって言ってた」
そういえば、朝に読んだ手紙にそんなことが書いてあった気がする。
私がこくりと頷くと、恵くんは小さく息を吐いて立ち上がり、キッチンへ向かって歩き出す。
「……あと、無理にとは言わねぇが、できれば服……着てくれ」
気まづそうに告げる恵くんの耳は、やっぱり少し赤らんでいた。
