第9章 愛する覚悟
恵くんは私の指を絡めるようにして強く握り、彼女を置き去りにしたまま、迷いのない足取りで歩き始めた。
……嫌だと思った。私以外の誰かの想いなんて、受け取ってほしくないと。
でも、あんな風に冷たく突き放さなくてもよかったのに、なんて心の中が矛盾で疼く。
「………なんで、受け取らなかったの?」
恵くんは、本当は誰よりも優しい。
不器用だけど、筋の通らないことはしない人だ。
だからこそ、さっきの冷酷な拒絶には、彼なりの理由があるのだと思って問いかけた。
「なんでって、……お前嫌だろ、ああいうの」
「え……、私?」
予期せぬ言葉に、繋がれた手から伝わる熱が一気に跳ね上がった気がした。
恵くんは前を見据えたまま足を止めず、当たり前のことのように平然とした横顔で続ける。
「お前が嫌がるようなことは、したくねぇ」
その低く響く声には、一縷の迷いも含まれていなかった。
世間の道徳よりも、あの子の思いよりも。何より私の心を優先すると断言されたようで、心臓が痛いほど脈打つ。
「そもそも、お前がいる所でああいうの渡してくる奴だ。はなから興味ねえよ」
そう言って、恵くんは私の手を握る力を強めた。
その強引な仕草が、世界中でたった一人、私だけを特別だと言い切ってくれる甘い呪縛のようで心地よかった。
「恵くん、……だいすき」
「…」
不意に零れたその言葉は、春の風に混じって消えてしまいそうなほど小さく響いた。
返事はなかったけれど、一度緩まった指が再び絡められ、掌が吸い付くように密着したのが答えのように感じる。
校門を出れば、私たちは呪術師としての過酷な未来を歩む運命だ。
眩しいほどに平和なこの風景が、一歩ごとに遠ざかっていく。
それでも、恵くんと一緒なら。
津美紀ちゃんを助けるためなら、どんな地獄だって、どこまでも頑張れる気がした。