第3章 交錯する想い
引き止めたタクシーの中は異常なほど静かだった。
エンジン音とワイパーが雨を払う規則的な音だけが、やけに大きく響く。
は膝の上で指を組み、その手元ばかりを見つめている。
声をかけようとしたが、どんな言葉も今は余計に思えて、結局俺は窓の外へ視線を逃がした。
ブレーキが踏まれ、身体が前に揺れる。
その余韻で、目的地に着いたのだと悟った。
金を払って外に出ると、湿った夜気が肺に入る。
も続いて降りてきて、小さく息を整えた。
「……お金、ありがとう。後で返すね」
遠慮がちに、視線を合わせないまま呟く。
拒絶ではないが、どこか一線を引くみたいな声音だった。
一本の傘に二人は収まりきらず、俺の肩がじわりと濡れる。
けれど、もう数歩歩けばと五条さんのマンションだ。
「ここでいいよ」
オートロックの前。
バッグから財布を取り出しながら、は言った。
しかし本人がそう言えど、貧血で倒れた人間を家まで送り届けないわけにもいかない。
「…いや、部屋まで送る」
「平気だよ、もうエレベーター乗るだけだし」
重ねてくる拒否。
理由を探すまでもなく、壁を作られているのが分かる。
俺も、大概こんな感じだったんだろう。
何の説明もなしに距離を取られることが、こんなにも居心地の悪いものだなんて、知らなかった。
が良いというのならそうするのがいいのかもしれない。
けど、放ってもおけない。
「……はい。気をつけて帰ってね」
胸に押し付けられた札束は、少しタクシーを走らせるには多すぎる額。
湿った紙の感触が、やけに生々しく感じた。