第3章 交錯する想い
「呪霊が見えるんだって。それで、私が祓ってるの、見たって」
代わりに答えたのはナマエだった。
淡々とした口調に、事実だけを切り取って並べたような声。
ナマエは術式で足元の拘束を解きながら、外されたシャツのボタンをひとつずつ掛け直し、俺の隣に立った。
「……無理すんな。座っとけ」
「平気。……沢山寝たから、」
そう言いながらも、ナマエは一度も俺を見なかった。
視線は床に落ちたまま、昨日のことを引き摺っているのがはっきりと伝わってくる。
自分で招いた状況だというのに、その事実が虚しく胸の奥に突き刺さった。
「貧血は寝ただけで治んねぇだろ」
「っ、」
心配だった。
だからこそ、ほんの少し語気が強くなってしまい、その一言でナマエの肩が僅かに揺れる。
「やっぱり。君に嫌われるのを、彼女は一番恐れてる。だから昨日の喧嘩を見た時に今日だと思った」
淡々とした男の声がやけに響き、空気を裂くように耳に刺さる。
「見た、って………は?」
俺の声に、男はゆっくりと首を傾げた。
理解できない言葉を向けられた、という反応ではなく、むしろこちらが当然のことを理解していない、とでも言いたげな目をしている。
「だって、分かりやすかったでしょ」
乾いた笑いを零しながら、床に座ったまま言う。
殴られて転がされた直後だというのに、奴からは焦りも恐怖も感じられない。
「君、昨日彼女を避けてたよね。彼女はそれに気づいて、必死に平気な顔をしてた」
その視線が、ねっとりとナマエへ向けられる。
視線に撫でられたみたいに、ナマエの足がほんの少しだけ後ろに下がった。