第3章 交錯する想い
ぞわり、と背中を冷たいものが這った。
私は今、欲望の対象としてここに置かれている。
「まずは君の身体、全部見せてよ」
軽い調子とは裏腹に、指先の動きには迷いがなかった。
彼の手が、私のシャツのボタンにかかる。
「……やめて」
掠れた声は、喉の奥で潰れそうになる。
「やめて?君なら無理やりにでも、その拘束を解けるでしょ」
試すような言葉。
私の術式の性質まで把握した上での、挑発にも似た囁き。
彼の背後では、脚立に設置されたカメラが静かにこちらを向いている。
黒いレンズは瞬きもせず、ただ"決定的な瞬間"だけを待っている。
呪術を使う瞬間を収められたら───取り返しがつかない。
そう躊躇っている間にも、布が擦れる小さな音とともにボタンが一つ外れ、続けてもう一つ。
シャツが僅かに開き、冷えた空気が肌を撫でた。
反射的に息が詰まり、遅れて皮膚の上を細かな震えが走る。
(……カメラを壊すのは簡単。でも、この位置じゃ、)
思考はハッキリしてるのに、決断が追いつかない。
時間だけが、不自然なほどゆっくり引き伸ばされていく。
「はぁ………さんの、」
吐息混じりの声が耳に落ちる。
それ以上の言葉を、聞きたくなかった。
(……もう、考えるの疲れちゃった)
そもそも栄養不足で倒れているのだ。
体がダウンしているのに、頭が働くわけもない。
どうでもいい。
もう、なにもかも。
悪意に飲まれた人間は、他を傷つけることに容赦がない。
あの日。あの雨の日。真っ赤に染まった故郷で嫌という程思い知ったはずなのに。
暖かな人たちに囲まれて、忘れかけていた。
「……抵抗、しないんだね。それなら───」
お腹を滑っていた指先が、ゆっくりと上に上がっていく。
同時に彼の頭が私の顔に影を落とした。
「初めて?…僕も、初めてだよ」
荒い息が顔にかかる。
彼の望むまま呪術を披露すれば、丸く収まるのだろうか。そもそもこんな身体で、頭で、上手く呪力の調節ができるだろうか。
どう足掻いても、きっともう間に合わない。
無意識に唇を結び、目を瞑った。その時。
「……ッなに、やってんだよ!!」
鋭い声が空気を裂いた。
そして次の瞬間、委員長の身体が後方へ強く引かれ、鈍い音とともに床へ転がっていた。