第3章 交錯する想い
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「ん……、」
瞼を持ち上げようとして、違和感に気づく。
——重い。いや、重いというより、思うように力が入らない。
指先を動かそうとして、できなかった。
手首も、足首も。
身体の感覚はあるのに、自由がきかない。
皮膚の下に残る感触が、拘束されている事実だけをはっきりと主張していた。
「おはよう。さん」
耳元で柔らかい声がした。
視線だけを動かすと、すぐ傍に人影がある。
その口元は、三日月みたいに細く弧を描いていた。
——ああ。そうだった。
私は彼に眠らされて、縛られているんだ。
状況を理解するのに、そう時間はかからなかった。
「無理に動かない方がいいよ。薬が効いてるだろうし、ちゃんと固定してあるから」
そう言って、彼は自分の口元に手を添える。
溢れ出る笑いをこらえるように、その指先が微かに震えた。
「僕さ、昔から“視える”タイプなんだよね」
淡々とした語り口。
それは自慢でも、告白でもない。
ただ事実を並べて、私の反応を一つひとつ拾い上げているような声音だった。
「学校、病院、廃ビルとか墓とかさ。小学校は特に酷かったなぁ」
彼は楽しそうでも、辛そうでもなかった。
感情の起伏を削ぎ落としたまま、懐かしい昔話をするみたいに言葉を重ねていく。
「でもね、君が転入してきてから、僕の世界が変わったんだ」
胸の奥がひくりと嫌な音を立てた。
芽生え始めていた予感が、確信に変わっていく。
「最初はね、視えなくなったんだって思って喜んだよ。やっと普通になれたんだって」
私が転入した小学校は、小さな呪霊が常に湧き出ていた。
近くにお墓があったからか、それとも敷地そのものに問題があったのか。その両方か。
私は派手な動きをしなくても祓除ができるタイプの術師だったから、
授業中も、休み時間も、誰にも気づかれないように、問題になりそうなものは片っ端から祓っていた。