第3章 交錯する想い
日常は淡々と続く。
いつもの授業、いつもの休み時間。
運が悪かったのは、四時間目に体育が入っていたことだった。
普段なら難なくこなせる内容だったはずなのに、昨夜からほとんど何も口にしていなかったせいで途中から視界が白く滲み始めた。
立ち上がった瞬間、足元がふらついたところまでは覚えている。
次に意識を取り戻したときには、保健室のベッドの上だった。
「お迎えが来るまでに少しでも食べて、横になっていなさいね」
枕元に置かれたのは、時間が経って冷めてしまった給食。
それを視界に入れて、私は小さく頷いた。
先生は「職員会議があるから」と短く告げ、足早に保健室を後にする。
扉が閉まる音がして、室内はすぐに静けさに包まれた。
窓から聞こえる雨音の中、給食に手を伸ばす。
一口、また一口と、ゆっくり体に入れていくと、遅れていた空腹感がじわじわと押し寄せてきた。
(…お迎え、誰が来るんだろう)
五条さんはありえない。
そうなると硝子さんか、夜蛾さんか……それとも、窓の人だろうか。
誰でもいい。
ただ、誰であっても余計な手間をかけてしまうことが申し訳なかった。
──ガララッ
扉の開く音がして、私は反射的にスプーンを置く。
「あ……」
「さん…!起きてたんだね」
間もなくカーテンが開かれると、そこには不器用な笑みが印象的なクラスの委員長がいた。
「体調は大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「……眼鏡、取ってるところ初めて見たよ」
「そうだっけ」
ベッドフレームに背中を預けながら、できるだけ無難な返事を選ぶ。
彼は私の荷物をベッド脇に置くと、なぜかそのまま近くのパイプ椅子に腰を下ろした。
「あの……?」
「僕、ずっとさんと話してみたかったんだ」
「…はあ」
思わず首がわずかに傾く。
どうして今、このタイミングなのか。
嫌なわけじゃないし、彼がそう思うのも自由だと思う。
けれど——体も、心も、余裕がない今の私に、彼の期待に応える力は残っていなかった。
「……ごめんなさい。今日は少し…」
気分が悪いから。
そう言おうとして体を横にした、その瞬間。
「……っ」
「大丈夫。ちょっとだけ、我慢してね」
覆い被さるように影が落ち、口元に布が押し当てられる。
ひやりとした感触と、鼻をつく微かな匂いに───意識が、遠のいた。