第3章 交錯する想い
怠い身体と重たい瞼。
不調に無理やり蓋をして、機械的に朝の支度を済ませる。
今日は平日。
学校がある。
昨夜のことは、ひとまずメールで謝った。
夕食を作れなくてごめんなさい。
せっかくのケーキを一緒に食べられなくてごめんなさい。
短い文章に詰め込めるだけ詰め込んで、送信ボタンを押した。
──返事は、まだ来ていない。
「…………行ってきます」
誰もいない部屋に向かって、小さく呟く。
そして五条さんがプレゼントしてくれた伊達メガネをかけ、玄関を出た。
鍵が自動で閉まる音を確認してから、足は自然とエレベーターへ向かう。
「……大雨、」
外は思った以上に強い雨だった。
地面を叩く水音が、気持ちを急かすみたいに耳に残る。
雨の日は、少しだけ嫌な記憶を連れてくる。
それでも、いつもなら"私が五条さんと出会った日"と言い聞かせて気持ちを切り替えられていた。
けれど今日は、どうしても上手くいかなかった。
思考は後ろ向きのまま、胸の奥に澱んだものが沈んでいく。
結局、朝ごはんは一口も喉を通らなかった。
────憂鬱だ。
何もかもが。
こんな感覚は、初めてだった。
傘に打ちつける雨音が、やけに大きく響く。
周囲の足音や車の走行音に混じって、自分の呼吸だけが浮いている気がした。
俯いたまま歩いて、
信号を待って、
横断歩道を渡って、
また歩く。
気づいたときには、校門が視界に入っていた。
制服の裾は少し濡れていて、靴の中がひんやり冷たい。
見慣れたはずの校舎が、今日はやけに遠く感じた。
深く息を吸って、吐く。
——大丈夫。
そう言い聞かせるように、濡れた地面を踏みしめて、校舎へと足を向けた。