• テキストサイズ

【呪術廻戦】呪いの嫁入

第3章 交錯する想い




翌朝。
いつもよりずっと重たい瞼を擦りながら、私は静かなリビングへ向かった。


昨日は部屋に戻った途端、堪えていたものが一気に溢れて、止まらなくなった。
そして理由を言葉にする余裕もないまま、涙に疲れて、夕食も作らずそのまま眠ってしまった。


五条さんに謝らなければ。
恵くんとも、ちゃんと話さなければ。


そんな義務感と憂鬱を胸に抱えたまま、朝日が昇る前の時間に起きたのに。


「……居ない」


キッチンにも、ソファにも、気配はない。
五条さんの部屋、洗面所、お手洗い——どこにもいなかった。


最後にもう一度リビングを見渡して、ようやく気づいた。
テーブルの上に、白い紙が一枚置かれている。


置き手紙だ。

指先でそれを手に取り、息を整えてから目を落とす。

 

"へ。

急遽任務が入ったから、今日はそのまま出張に向かうね。
冷蔵庫にケーキあるから、好きなだけ食べていいよ。

  愛しの五条さんより♡"

 

胸の奥が、きゅっと縮む。

寂しさと同時に、ふっと肩の力が抜けた。
——安堵してしまった自分が、少し嫌だった。


きっと五条さんは、夜蛾さんからあの話を聞いている。
だからこそ、お祝いのつもりでケーキを買ってきてくれたのだろう。


わかっている。
それが、五条さんなりの優しさだということも。


でも——。


正直、まだ気持ちは何ひとつ整理できていない。
もし今、あの話を笑顔で振られていたら。
きっと私は、感情を抑えきれなかった。


「……ごめんなさい」


声に出した瞬間、喉が詰まる。


「こんな……ダメな子で、ごめんなさい……っ」


達筆な文字を、指でなぞる。
その動きに釣られるように、ぽた、と涙が落ちて、インクを滲ませた。


——ああ、せっかくのお手紙が。


視界が歪んだまま、力が抜けて、崩れ落ちるように床へ座り込む。

手紙を胸に抱いたまま、どれくらいの時間が過ぎたのかも分からない。


「……」


窓の外で、ぽつり、と音がした。

次第にそれは重なって、
やがて、はっきりとした雨音になる。

まだ明けきらない空の下、空模様は私の心を映したように暗かった。
/ 104ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp