第3章 交錯する想い
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「〜!愛しの五条さんが帰ったよ〜」
ケーキの箱を片手に玄関を開く。
いつもならパタパタと駆け寄ってくるが、今日は来ない。
「……〜?かくれんぼ?」
冗談混じりに名前を呼ぶが、返事は返ってこなかった。
室内の灯りはすべて落とされ、家の中はしんと静まり返っている。
夜に外出するなら、必ず一言あるはずだ。
それをしないじゃない。
それならば、と彼女に与えた部屋の前で足を止めドアノブに手をかけた。
────キィ
鍵はかかっていない。
部屋の電気はついていなかったが、の気配はしっかりと感じた。
「なんだ、寝てるの」
規則正しい寝息が聞こえてきて、胸の奥がわずかに緩む。
同時に、ほんの少しだけ肩透かしを食らったような気分にもなった。
せっかく買ってきたケーキ。
今日は一緒に食べられると思ってたんだけどなぁ。
「ん…?」
起こさないように、そのまま部屋を出ようと踵を返した、その時。
月明かりに照らされた横顔に、ふと違和感を覚えた。
「………は?」
近づいて、息を呑む。
の頬に、はっきりと残る涙の跡。
悪夢でも見たのだろうか、それとも誰かに泣かされたのか。
今すぐ問い詰めたい感情を何とか抑え、一旦部屋を後にした。
正直、叩き起してでもその理由を問いただしたい。
しかしはぐっすりと眠っている。
その眠りを妨げることは、善良な僕にはとても出来ない。
だけど!明日は朝から任務、それも出張で3日は戻れない。
「理由も気になるし……ケーキも食べられないし……」
珍しく早く帰れたというのに、なんという拷問。日頃の行いは良いはずなのに。
「ま、明日の朝聞けばいいか」
結局、その夜はを起こさなかった。
ケーキにも手をつけず、明日の朝に一緒に食べるつもりで冷蔵庫の奥にそっとしまい込んだ。