第3章 交錯する想い
——違う。
それは、彼の努力を踏みにじる思考だ。
恵くんがどれだけ血を吐く思いで強くなってきたか、私は知っている。
それを「守る」という言葉で覆い隠すなんて、絶対にしてはいけない。
「ミョウジ、顔色が悪いぞ」
夜蛾さんの声に、はっとして顔を上げる。
「……すみません。今朝から、少し体調が悪くて」
半分は嘘で半分は本当だった。
朝からずっと、胸の奥が重くて、呼吸が浅い。
「無理はするなよ」
「ありがとうございます」
一礼して踵を返しかけた、そのとき。
「夜蛾さん」
自分でも驚くほどに、静かな声が喉から漏れた。
「……五条さんには、夜蛾さんの判断で任務を分けることにした、と伝えてください」
夜蛾さんが、ほんの少しだけ目を細める。
「………色々聞かれるの、嫌だと思うから」
恵くんも、私も。
五条さんは鋭い。
冗談めかして核心を突いてくる。
今の私には、それを躱せる余裕がなかった。
「分かった。悟に相談し辛いようなら、硝子や私のところに来なさい」
「ありがとうございます、……失礼します」
もう一度深くお辞儀をしてから会議室を出ると、廊下は静まり返っていた。
もうここに、恵くんはいない。
当たり前のように隣にいた彼が、気づけば取り返しのつかないところまで離れてしまった気がして——。
私は、堪らずその場でしゃがみ込んだ。