第3章 交錯する想い
──恵くんの案は、驚くほどあっさりと通った。
呪術界は常に慢性的な人手不足だ。
私と恵くんが別々に動けるなら、その分だけ任務は捌ける。
理屈としては、誰も反対する理由がなかった。
「……いいのか」
恵くんが会議室を出ていったあと、夜蛾さんが低く問いかけてくる。
その声は咎めるでもなく、ただ確認するだけのもの。
「…」
良くない、なんて言えるはずがない。
ここまで来てしまった以上、私はただ、この選択を飲み込むしかなかった。
「一応、悟に報告は入れるつもりだが……恐らくアイツも拒否はしないだろう」
分かっている。
五条さんなら、きっと笑って言うだろう。
——二人とも成長したじゃん、と。
それは明白だ。
私も、恵くんも、以前よりずっと強くなった。
1人前の呪術師だと認められたことは、正直、誇らしい。
それでも。
(……私がずっと、守ってあげるのに)
一瞬過ぎった煩悩に吐き気がして、口元を手で覆った。
——違う。
それは、彼の努力を踏みにじる思考だ。
恵くんがどれだけ血を吐く思いで強くなってきたか、私は知っている。
それを「守る」という言葉で覆い隠すなんて、絶対にしてはいけない。
「、顔色が悪いぞ」
夜蛾さんの声に、はっとして顔を上げる。
「……すみません。今朝から、少し体調が悪くて」
半分は嘘で半分は本当だった。
朝からずっと、胸の奥が重くて、呼吸が浅い。
「無理はするなよ」
「ありがとうございます」
一礼して踵を返しかけた、そのとき。
「夜蛾さん」
自分でも驚くほど、声は静かだった。
「……五条さんには、夜蛾さんの判断で任務を分けることにした、と伝えてください」
夜蛾さんが、ほんの少しだけ目を細める。
「………色々聞かれるの、嫌だと思うから」
恵くんも、私も。
五条さんは鋭い。
冗談めかして核心を突いてくる。
今の私には、それを躱せる余裕がなかった。
「分かった。悟に相談し辛いようなら、硝子や私のところに来なさい」
「ありがとうございます、……失礼します」
もう一度深くお辞儀をしてから会議室を出ると、廊下は静まり返っていた。
もうここに、恵くんはいない。
当たり前のように隣にいた彼が、気づけば取り返しのつかないところまで離れてしまった気がして——
私は、堪らずその場でしゃがみ込んだ。