第3章 交錯する想い
これまで当たり前だった場所。
恵くんの隣は私で、私の隣は恵くん。それなのに───今は隣が空っぽで、寒い。
「………それでは、高専に戻ります。戻り次第、いつも通り報告書の提出を、」
「伊地知さん」
伊地知さんの事務的な声が車内に流れる。
それを遮るように、恵くんは声をあげた。
「今後、俺との任務は分けてもらえますか」
低く、迷いの無い声。
一瞬時が止まったように感じた。いや、きっと一瞬、心臓は止まっていた。
「え…?それは……五条さんに確認して───」
「あの人はいいでしょ。確認するなら学長にしてください」
五条さんに聞かれて色々と深堀されるのが嫌なんだ。
もう何年も一緒だから、恵くんの思考が何となく分かってしまう。
きっと、この案が流れたところで恵くんは私を遠ざけるのだろう。
それなら。
「……私からも、お願いします」
貴方がそれを望むなら、そうするべきだと思った。
だから、その案が通りやすいように、私は端的に後押しをした。
「……分かりました。それでは夜蛾学長へ確認してみます。面会の手配を進めておきますね」
「ありがとうございます」
誰も、それ以上何も言わなかった。
私は下を向いたまま何も言えずに、ただ膝の上で指を握りしめていた。