第3章 交錯する想い
「え……?」
思わず、服をさすっていた手が止まった。
どうして今、そんな判断をするのか——理由が掴めない。
「その方が早く済む」
相談でも提案でもない、現場での即断。いつもの恵くんなら、絶対に選ばないやり方だった。
「でも……今日はこの後に任務は無いし、ゆっくりでも確実に——」
「俺が、そんなに心配かよ」
低く抑えられた声。
感情を噛み殺すような響きが胸に突き刺さって、ジクジクと痛み出す。
「っ心配に決まってるでしょ……!私、恵くんが傷つくのは、嫌だよ」
反射的に強くなってしまった語気にも、恵くんは振り返らず淡々と言った。
「……俺より長く呪術師やってるからって、先輩面すんな」
その一言で、言葉が喉に詰まった。
——先輩面。
「そんなつもり……っ」
否定しようとした。だけど、言葉は喉の奥に詰まって出てこなかった。
"大丈夫!次も私がバッチリサポートするからね"
今まで自分が恵くんに掛けた数々の言葉が、脳裏で復唱される。
善意のつもりだった。
ただ傷ついてほしくなくて、守りたいだけだった。
でも、それは彼にとって不要な気遣いで───結果、私が恵くんを傷つけた。
『………助かった』
あの日。初めて共同任務を任された時。
私に向けて言ってくれた感謝の言葉、ほんの少しだけ緩んだその日表情。
その一言が嬉しくて、誇らしくて。もう一度あの笑顔を見たくて。
その想いにすがるあまり、私は気づかないうちに彼を縛っていた。
「何かあったら連絡入れろ。……まぁ、お前は1人でも大丈夫だろうけど」
「………」
何も、言えなかった。
罪悪感と孤独感に押しつぶされそうになりながら、恵くんの背中を見送る。
傷ついてほしくない、死んでほしくないの。
でも、守る以外の口実で誰かの隣に立つ方法を、私は知らなかった。