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【呪術廻戦】呪いの嫁入

第3章 交錯する想い






「伏黒くん。着きましたよ」


伊地知さんの声が車内に静かに染み込む。

同時に減速の振動が足元から伝わり、タイヤが砂利を踏む乾いた音がやけに大きく響いた。


窓の外に見えるのは小さな校舎。

朝の光を受けているはずなのに色は薄く、輪郭も曖昧で、人に忘れ去られた場所特有の妙な静けさをまとっている。


「恵くんが任務前に寝るなんて、珍しいね?」


隣で軽い欠伸を漏らした彼にいつもより柔らかく声をかけると、「……あぁ」と短く言葉が落とされた。

視線は終始、窓の外に向けられたままで、こちらを見る気配はない。
肯定なのか、ただの相槌なのかも分からない、曖昧な返事だった。


「昨日は夜更かししたの?」
「別に」


ほんの少し間を詰めて聞くと、今度は間を置かずに返ってくる。
語尾も感情も削ぎ落とされた言葉だけが、静かな車内に残った。


「……?」


胸の奥に小さな引っかかりが生まれる。

眠っていたこと以上に、その距離感。
必要以上に線を引くような、いつもより硬い空気を、恵くんが纏っていたから。

伊地知さんがエンジンを切り、私たちは静かに車を降りた。


「それでは、帳を下ろします」


淡々とした声と同時に、周囲の空気が一変する。
視界の端が揺らぎ、校舎を包むように薄暗い膜がゆっくりと降りていった。

外の世界が切り離される。と同時に——じわじわと、呪力の気配が濃くなっていく。


古い感情の澱。
人の記憶に残ったまま置き去りにされた校舎。
低級呪霊特有の雑多で落ち着かない気配が、敷地の隅々から滲み出していた。


「……小さい学校なのに、凄く多いね」


校内へ足を踏み入れると、無意識に言葉が漏れた。
皮膚の内側をくすぐるような、不快な圧がまとわりつく。
呪霊の気配に寒気がして、服の上から身体を摩った───その時。


「二手に別れるぞ」


何の前触れもなく、恵くんはほんの一瞬だけ足を止め、それから迷いのない声で言った。
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