第3章 交錯する想い
扉が閉まり、家の中に静けさが戻る。
「あれが大人とか、ありえないだろ」
「ふふ、大人って感じしなくて、素敵な人だよ」
履物を脱ぎながら言うと、恵くんは小さく鼻を鳴らした。
照れとも呆れともつかない、言葉にしきれない表情。
「……なんか、お前が来てから、あの人のウザさが増した気がする」
「えっ。えっと、謝った方がいい……?」
本気で困って問いかけると、恵くんは一瞬だけ言葉に詰まり、視線を逸らす。
そして少しの沈黙の後、短く。
「いや、いい」
そう言って居間へ向かって歩き出す背中は、随分と落ち着いて見えた。
身長も、声も、雰囲気も。
——もう"子ども"という言葉は少しずつ似合わなくなっている。
「ふふ」
思わず零れた笑いに、恵くんは振り返らなかった。
居間に入ると、ソファに並んで腰を下ろす。
互いの距離は近いのに、無理に意識することもない。
「今日はどの映画観る?」
「映画の前に、明日の任務の詳細見るぞ」
「うん、わかった!」
そう答えながら、自然に身を寄せる。
触れた肩の温度も、その距離感も、もう説明はいらない。
四年分の時間が静かにそこに積み重なっていた。