第3章 交錯する想い
私と恵くんが出会ってから、四年の月日が経った。
中学生に上がった私たちは、任務の当てられていない休日になると、変わらず呪力コントロールの訓練を続けている。
無意識に流れる呪力の感覚も、並んで過ごす沈黙も、いつの間にか当たり前になっていた。
「んじゃ、僕は夜まで任務があるから」
そう言って五条さんは、相変わらず手ぶらのまま玄関へ向かい、気楽な調子で片手をひらりと振る。
その背中は、これから危険な現場へ向かう人のものとは思えないほど軽い。
——が、数歩進んだところで、思い出したように振り返る。
「恵、に手ェ出すんじゃないよ〜」
「出しませんよ」
ニコニコとした笑顔で放たれる冗談に、恵くんは眉ひとつ動かさず即答した。
呆れと慣れが混じった声音。
このやり取りも、もう何度繰り返したかわからない。
ふと壁の時計を見る。
伊地知さんから聞かされていた約束の時間は、気づけばすぐそこまで迫っていた。
「五条さん、早く行かないと。伊地知さん待ってるんでしょ?」
「ん〜〜〜〜」
五条さんが恵くんをからかい始めると、話は途端に脱線する。
それは、この四年で嫌というほど学んだこと。
少しだけ声に力を込めたのに、五条さんはその場で足を止め、顎に手を添えて大げさに唸り始めた。
「行ってらっしゃいのハグして♡」
「ふふ、はぁい」
一歩近づく。
そして迷いなく腕を伸ばすと、五条さんは当然のように受け止めてきた。
黒い服越しに伝わる体温は、昔と変わらず高い。
抱きしめる力は軽いのに、すっぽり包まれる感覚だけは、今でも不思議と落ち着く。
「ん、補給完了」
満足そうにそう言って五条さんは体を離し、そのまま靴を履いた。
「じゃ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
玄関を出る直前、もう一度だけ振り返り、ひらりと手を振る。
その背中が扉の向こうに消えるまで、私は視線を外さなかった。