第2章 わるいこ
「さてさて恵くん、話を聞かせてもらおうかな」
ふざけた口調のまま、サングラス越しに恵を見据える。
空気は軽く、けれど一歩も逃がさない距離感を保ったまま。
「……全部、アイツが祓いました」
腰を落とし、視線を合わせるように首を傾げる。
すると恵は珍しく素直に、建物の中でのことを話し始めた。
三階の踊り場で、三級呪霊に手こずっていたところへが現れたこと。
の巧みなサポートで、祓除を成立させたこと。
そして——その後。
「外から見た感じ、準二級レベルが出てたよね。それもが?」
まずい状況だと思い、援護に入ろうとした矢先、わずか数分で呪力反応が消えた。
がやった——その確信はあったけど、詳細は聞いておきたい。
「……たぶん」
「たぶん?」
聞き返すと、恵はふいっと視線を逸らし、悔しそうに唇を噛む。
「恵、話して」
「……1体目の呪霊を祓った後、俺は眠らされてました」
そこで一度、言葉を区切る。
「気づいたら、アイツの膝で寝てて。服はボロボロだし、顔は……涙で、べちょべちょになってて」
「ふーーーーん?? の?? 膝で? 寝てたんだ」
わざとらしく声を伸ばして聞き返すと、恵はわずかに眉を寄せ、居心地悪そうに黙り込む。
二人には仲良くやって欲しいと思ってはいるが、自分がまだ体験していない"の膝枕"を先に奪われたことは、かなり気に食わない。
「ま、いい経験したじゃん」
軽く肩をすくめ冗談めかして笑いながら、その経験の重さを図るように目を細めた。
助け合いを学んだ恵と、守ることを迷わなかった。
二人の距離が確かに一歩縮んだなら、それだけでを連れてきた甲斐がある。
「恵、は足手まといだった?」
「……いいえ」
それは即答に近い、短い否定だった。
「ククッ」
思わず喉が鳴る。
車の方へ視線をやると、ちょうどがフリルたっぷりの、まるでお姫様みたいな格好でこちらへ駆けてくるところだった。
二人は、ちゃんと前に進んでる。
——思ったよりも、ずっと、ずっと早く。