第14章 『いいこ』の作り方
報告書を書き換えようとする硝子を制し、悠仁に最低限の力をつけさせることを決めた後。
僕は、高専の寮の一室───たった一人の愛しい娘の部屋の扉を軽く叩いた。
「ナマエ。いるでしょ、開けて」
中に居るのは分かってる。
だけどナマエは、この僕を相手に無意味な居留守を決め込もうとしているらしい。
「ナマエ〜、開けるまで一生続けるよ〜〜」
ナマエにとって、目の前で命が消えるという惨状はまだ慣れたものじゃない。
それが、これからもっと仲良くなるはずだった同級生なら尚更だ。
(……悠仁は生き返った、とは言ってやれないんだよな〜…)
それを言えばナマエがいつも通りに戻ることはわかってる。
それでも、いつも通りに戻ることこそが、僕にとって都合が悪かった。
……悠仁が生きていることを、上層部の腐った連中に悟らせるわけにはいかない。
沈みきっていたはずのナマエが突然明るく振る舞い始めれば、勘の鈍いジジイ共だって異変に気づくだろう。
「ナマエ〜………あっ!恵だ!」
「…………」
「え〜……マジかぁ」
恵の存在を仄めかせば、少しは動じるかと思ったのに。
今回はかなり重症らしい。
(……さて、どうやってナマエを掬いあげようかな)
父親として、そして教師として。
今こそ、僕の手腕が試される時だ。
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それから数時間経っても、ナマエが扉を開くことはなかった。
まあ、僕が育てた子だし。
意思が強いのはいいことだ、ウン。
「はぁ〜………自分で開けるつもりないんだ。んじゃ、強行突破と行こうか」
深いため息の後、独り言のように告げると、扉の向こうでヒクリと呪力が揺らいだのが分かった。
────ああ、珍しい。お前の呪力コントロールが、こんなにも杜撰になるなんて。
「待っ───」
「待たな〜い」
術式を編み、扉という物理的な障壁を無視して部屋の内側へと滑り込む。
意味がないと分かっていながら制止の声を上げたナマエは毛布に身を包み、涙でボロボロになった顔で呆然と僕を見上げた。