第13章 呪胎戴天
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注意が散漫になっていた。
二度の無免許運転で人を殺めた在院者の遺体。
それを「せめて遺族へ」と持ち帰ろうとする虎杖と俺との間で、不毛な口論が始まったその時。
仲裁に入ろうと口を開いた釘崎が床下に呑み込まれるように消え、呪霊の接近を感知するために傍に控えさせていた玉犬は、無惨にも壁に埋め込まれ破壊されていた。
そして俺たちのすぐ目の前には、"特級呪霊"が愉悦を孕んだ眼差しで佇んでいる。
「俺が死んだらオマエも死ぬんだろ…!それが嫌なら協力しろよ、宿儺!!」
「断る」
「っ…!!」
特級に切り落とされた左手首をベルトで締め上げながら、虎杖は決死の覚悟で宿儺に交渉を持ちかけた。
しかし、返ってきたのはあっさりとした拒絶だけ。
ここで虎杖が死のうが、切り分けられた宿儺の指は、まだ18本も残っているからだと。
「とはいえ、腹立たしいことにこの身体の支配者は俺ではない。代わりたいのなら代わるがいい」
「……、」
「だがその時は、呪霊より先に───そこのガキを殺す」
突如として自分に向けられた明確な殺意に、反射的に背筋が凍りつく。
「次に女。アレは活きがいい……楽しめそうだ」
「…っ、」
「そして最後は───あの苧環とかいうガキだな。アレには少し"私用"がある。用が済めば殺す」
次々と変化する殺意対象の中、最後に明確に添えられた一人の名前に、呼吸が止まった。
……あの宿儺が、ナマエに何の用があると言うんだ。
「……んな事、俺がさせねぇよ」
「だろうな。だが俺にばかり構っていると────それこそ仲間が死ぬぞ」
「「……っ!!」」
長話が過ぎた。
傍らで蠢いていた特級呪霊が待ちきれないと言わんばかりに呪力の塊を吐き出し、俺と虎杖の間の地面が、轟音と共に一瞬で抉り取られる。
(……呪術じゃない。ただ、呪力を飛ばしただけだ)
想定を遥かに超える実力差に、思考が一瞬、遠くへ持っていかれた。
どうする。どうすれば、ここから虎杖を連れて、釘崎を救って外に出られる。
……考えろ、考えろ、考え─────
「伏黒!!」
「…!」
沼に入った思考から引き上げるように、虎杖に名前を呼ばれ、意識が現実に戻った。