第13章 呪胎戴天
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補助監督さんの後に続いて校舎を抜け、少し離れた別棟に足を踏み入れる。
事前に言われた通り中央に進めば、薄暗い部屋の中、設置された障子の奥から老いた声が響いた。
「苧環 ナマエ。……こうして直に言葉を交わすのは初めてだったな」
「あ……はい、初めまして」
声のする方角へ向き直り腰を折ると、四方八方から品定めをするような、くすくすと湿った笑い声に包まれる。
「五条悟とは、似ても似つかぬ器だな」
「それはそうだろう。奴とは血縁関係などひとかけらもないのだから」
「………………」
事実を言われているだけと分かっていても、何故か心に突き刺さる。
血の繋がりなんてないけれど、最近は仕草や雰囲気が似てきたと言われることが増えて、それが密かな喜びでもあったのに。
「あの……昇級のお話と聞いて来たんですが」
意を決して切り出すと、一瞬だけ場が静まり返り、「ああ、そうであったな」と、思い出したかのような返告が響く。
楽しそうなお喋りに横槍を入れるのは気が引けたけれど、私は一秒でも早く皆がいる教室に戻りたかった。
「苧環 ナマエ。貴様を本日付で"一級術師"として登録する」
「……っ」
一級。それは特級を除き、呪術師として最高の評価。
喜ぶべきはずなのに、私の心は少しも跳ねなかった。
自分はその器になり得ないと、本能的に分かっていたからだろう。
「あっ、あの……お言葉ですが、私にはまだ───」
「良い"術式"に恵まれたな、苧環」
妙に圧のこもった声音に、喉の奥がひゅっと冷えた。
いつだったか。
五条さんに「術式の開示は極力避けなさい」と釘を刺されたことがある。
だから私は、共闘相手にも「身体に巻き付けた赤い布を操作できるだけ」としか説明していないし、実際、それ以外の方法で呪霊を祓ったこともない。
だとしたら何故、何も知らないはずの総監部の人たちは、私の術式を"良いもの"だと断定して言うのか。
「この布を操作できるだけの術式が……ですか?」
制服の裾を肘まで上げながら、カマをかけた。
そんな芸当、普段の私なら絶対にできない。
でも、五条さんが隠したがった私のことを、ここで知られるわけにはいかない。