第12章 鉄骨娘と元神様
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「……アンタそれ、さっきからわざとやってんの?」
「え…?」
澱んだ空気の立ち込める廃病院の廊下。
六体目の呪霊を祓い終えた直後、釘崎さんはその綺麗な顔を歪め、鋭い視線を私に突き刺した。
「私が祓いやすいように、わざわざ呪霊を追い込んで、足止めしてるでしょ」
「あ……うん」
こくり、と素直に頷けば、釘崎さんはこれ見よがしに深い溜息を吐き、心底苛立った様子で続けた。
「自分で祓いなさいよ。わざわざ私に押し付ける理由って何?」
「押し付けるっていうか、サポートのつもりで……」
「そういうの要らない。私は私がやりたいように動くから、アンタも好きに動きなさい」
突き放すような冷たい言葉を全身で受けながら、私は早足に遠ざかる釘崎さんに取り残されまいと、必死に足を動かした。
(好きに動けって言われても……)
その結果が さっきの立ち回りなのだと言えば、彼女は納得してくれるだろうか。
私は自ら先陣を切って呪霊を祓うことよりも、誰かのサポートに徹することの方が ずっと落ち着くのだ。
誰かの背後で、五条さんに唯一褒められた自分自身の"勘"を頼りに戦場を俯瞰する。
目に見える敵を仲間に祓ってもらっている間に、私は影に潜んでいるかもしれない敵を見つけるために神経を研ぎ澄ます。
……けれど、今の釘崎さんにとって、私のそれは不純で余計なお節介でしかないようだった。
「はぁ………絶ッ対手分けした方が早いのに。何でセットで動け、なんて言われなきゃいけないのよ」
「……ごめんなさい」
また、私は余計なことをしてしまった。
恵くんとの一件から、私は何一つ学べていない。
「守られること」に屈辱を感じる人がいることを、私は痛いほど知っていたはずなのに。
「……アンタね、いちいちビビって謝んの止めてくれる?」
こっちが悪いことしてる気になる、と吐き捨てるように付け足した釘崎さんが、私に向き直る。
威圧するようにずいと顔を寄せられ、私は視線を合わせられないまま、逃げるように地面を見つめた。