第2章 わるいこ
「ひっ……!」
反射的に肩をすくめると、喉の奥がきゅっと縮む。
振り返った先には昨日も見た鋭い目つきの男の子が立っていて、こちらを値踏みするような視線が、遠慮なく突き刺さる。
「ほらほら〜、そんな怖い顔しないの。怯えちゃってるでしょ」
五条さんは相変わらず軽い調子でそう言いながら、私の頭に手を置く。
さっきまでの緊張が、その大きな手の温度で少しだけ緩んだ。
「ったく、そんなんじゃ女の子にモテないよ〜?恵」
「別に求めてない」
即答だった。感情の起伏すら感じさせない声に、私は思わず瞬きをする。
「お前はの可愛いとこ見習いなさいよ」
「……はあ?」
眉をひそめる彼と目が合い、慌てて視線を逸らす。
「ほら、。ご挨拶は?」
「おっ、オハ、オハヨウ、ゴザイマス……」
「アハハ!カタコト!」
笑われた瞬間、頬に熱が集まるのが分かった。
自分の声が思ったよりも小さく、震えていたことに今さら気づく。
そんな空気を切り裂くように、再び彼の声が落ちた。
「そいつ、祓えるんですか」
冗談の入り込む余地のない、真っ直ぐな問い。
五条さんの笑顔が一瞬だけ止まり、場の空気が張り詰める。
「ん〜?なんで?」
「……足手まといは要らない」
その言葉は、私に向けて放たれていると分かっていても、胸に刺さるまでに時間はかからなかった。
視線が自然と床に落ちる。
「んまっ!恵ってば不器用なんだから〜。もっと優しく、"女の子なんだから危ないところに来ないで"って言ってやんなさいよ」
「はぁ?!俺は、本気で……」
二人の声が重なる中、私は指先を握りしめた。
逃げるように黙ってしまえば、きっと弱いままの私から抜け出せない。
そう思って、一歩、前へ足を進めた。
「……わ、私……あなたより弱いかも、だけど、足手まといにならないように頑張る、から」
言葉を選びながら、必死に絞り出す。
視線を上げると、彼の目が一瞬だけ揺れたように見えた。
そして短い沈黙のあと、そっぽを向くように顔を逸らす。
「……別に、来るなとは言ってないし」
吐き捨てるようなその声は、さっきよりも少しだけ鋭さが削がれていた。