第9章 愛する覚悟
何十回とシャッターを切り、カメラの液晶画面に浮かぶ、不機嫌そうな恵と無邪気なナマエの姿を確認していた時。
前からパタパタとナマエが駆け寄ってきて、僕のスーツの裾をクイッと小さく引っ張った。
「五条さんも一緒に撮ろ?」
「撮る………」
強請るように小首を傾げて見上げられたら、もう誰も逆らうことなんて出来ない。
僕は小さく頷いたあと猛ダッシュで車へ戻る。
そして座席に置いていたふたつの花束を取り上げ、中で待機していた伊地知を門前へと駆り出した。
「あっ、伊地知さん!お疲れ様です!」
伊地知の顔を見たナマエは顔をほころばせ、恵もまた、この日一番の落ち着いた様子で小さく会釈をする。
「ミョウジさん、伏黒くん。ご卒業、おめでとうございます」
「ありがとうございます……!」
「ありがとうございます」
珍しく素直な恵に感心しつつも、僕は緩みきった伊地知の手元に、僕の愛機であるカメラを押し付けた。
「え………預かるんですか?」
「撮んの。100枚は撮ってね、連写で頼んだ」
「はっ、はい…!?」
「それ、今日のために買ったウン百万するカメラだから、壊すなよ」
「なぜ今それを…!?」
わざとらしく肩をすくめて脅してみせると、
伊地知はカメラを持つ手をブルブルと震わせながら、命綱のように紐を首にかけた。
そんな伊地知のプレッシャーを横目に、僕は持っていたふたつの花束を、まずはナマエへ丁寧に、次に恵へと無造作に押し付けた。
「わっ……おっきい花束!買ってきてくれたの?」
「当然!ナマエのために。あとついでに恵の分も」
「俺は別に、いらないんスけど」
花を受け取りながらもふいっとそっぽを向いて悪態をついた恵は、ナマエに「そんなこと言わないの!」とたしなめられていた。