第9章 愛する覚悟
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中々校門に現れないナマエを探すため、恵が車を出ていって暫く。
僕は後部座席に深く沈み込み、気だるげにサングラスをかけ直すと、後頭部で腕を組んで天井を仰いだ。
「伊地知ぃ〜。僕、明日から一週間有給とる」
「はい!?」
呪霊を祓うなんて殺伐とした気分には、到底なれない。
僕が手塩にかけて、大切に大切に育ててきたはずのナマエが、恵に嫁ぐ予定だなんて。
考えただけで泣きそう。もちろん、可愛さ余って憎さ百倍の方で。
「恵のくせに婚約とか生意気。今度訓練でボッコボコにしちゃお〜♡」
「大人気ない……」
そんな伊地知のボヤきに突っ込んでやろうとした時、コツコツ、と硬質な音を立てて車の窓が叩かれる。
視線を向ければ、そこには春の夕日を浴びて立つナマエと恵の姿があった。
窓を開くと、ナマエは僕の顔を見てパッと花が咲くような笑みを浮かべて片手を振る。
「五条さん、お待たせしました!」
「んーん、全然待ってないよ」
「ほんと?」
「ホント♡」
扉を開けて外に出れば、二人の距離は物理的な隙間すら許さないほどに密着していた。
指まで固く絡め合ったその手を見て、ふぅん、と鼻を鳴らしてみても、恵はその手を解こうとはしない。
僕への当てつけか、独占欲の誇示か。
そんな生意気な仕草を見せられると、やはりナマエを嫁に出すのは百万年早いと確信してしまう。
「まだ認めないよ?」
「認めさせるんで」
それだけを交わして車を離れ、僕たちは校門付近に設置された卒業式典の看板へと歩き出す。
背後でナマエが「何を認めさせるの?」と無邪気に問いかけていたが、恵がそれに答えることはなかった。
「ほら、二人とも並んで並んで!!写真撮ろ〜」
「いや、いいですそういうの」
「え…撮らないの?」
「………」
不服そうに眉を寄せた恵だったけれど、ナマエに上目遣いで懇願されると脆いもの。
結局恵は深々と溜息を吐き、渋々ナマエと繋いでいた手を離して、看板の左右に距離を取って立った。
「はい、じゃあ撮るよー!恵ぃ!!こっち見なよ!」
「はぁ……」
不服そうな顔の恵はカメラから視線を逸らしたまま。
何枚かシャッターを切ったけど、結局その目がカメラに向くことはなかった。