第9章 愛する覚悟
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恵くんと教室を出て、下駄箱で靴を履き替える───そのつもりだったのに。
自分の靴箱を開けた途端、十数枚の色とりどりの便箋が雪崩のように溢れ出し、私の足元を埋め尽くす。
「手紙……?」
「……………」
何が起きたのか分からず、落ちた一通を拾い上げて差出人を確認しようとした、その瞬間。
背後から恵くんの手が伸び、私の指先からそれを奪い去った。
「あっ、なんで!?」
「…捨てる。残ってるやつ全部よこせ」
「私宛なのに…!?」
説明も何もなく、恵くんは下駄箱に残っていた手紙を無造作に、けれど一通も漏らさないように掻き集めた。
そしてそれを自分のバッグに押し込み、乱暴にジッパーを閉める。
「もう……あとで返してね?」
「俺が覚えてたらな」
「え〜…?」
そんなやり取りを交わしながら、私たちはようやく靴を履き替えた。
校舎を抜け、正門へと続く並木道を一歩ずつ進んでいく。
「あの、……伏黒くん」
あと少しで敷地を出る、というところで、背後から震えるような女の子の声が恵くんの名前を呼んだ。
二人で振り返ると、そこには髪を綺麗に編み上げた女の子が、頬を赤く染めて立っていた。
「これ、……どうしても、受け取ってほしくて」
差し出されたのは、桜色の可愛らしい便箋。
それが何を意味するのか、分からないほど私は鈍感じゃない。
「…………行くぞ」
「え…」
「五条さんたちが待ってる」
恵くんの声は酷く冷たかった。
差し出された便箋に視線を落とすことすらなく、彼女の存在そのものがなかったかのように切り捨てて背中を向ける。
「伏黒くん!受け取ってくれるだけで───」
「いらねえ」
そのあまりに無機質な拒絶に、恵くんを追いかけようとする女の子の足が、凍りついたように止まった。