第9章 愛する覚悟
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頬を撫でる風がほんのりと温度を帯び始め、校庭の桜の蕾が膨らみだす頃。
胸に淡い色のコサージュを添えた私たちは、この学び舎を後にする。
「ナマエちゃん……っ、高校でも、元気でね…!!」
「っ、……うん!!藤沼さんも、ぜったいぜったい、元気でね…!」
人がまばらにはけ始めた教室で、私と藤沼さんはきつく抱き合った。
卒業を迎えると同時に、私は高専の所属となり、今までのように自由に使える時間は限られる。
「東京の学校だよね……?」
「うん……。宗教系の学校で、恵くんも一緒」
「そっか…」
埼玉と東京。
遠くはないが、高専の位置を考えると近くもない。
お互い分かっていた。今後会える確証はないと。
「……ねぇ。もし、もう会えなくなっても。私のこと、忘れないでほしいな」
ふと口をついて出たのは、祈りにも似た切実な本音だった。
この学校に転入して、右も左も分からなかった私に色々教えてくれたのは藤沼さんだ。
彼女にとって私がどんな存在なのかは分からないけれど、私にとっては大切な人の一人。
「そんなの、当たり前だよ……!!」
「…っ」
「私だって、ナマエちゃんに私のこと覚えててほしいよ…!!」
藤沼さんは叫ぶようにそう言うと、私を抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた。
制服越しに伝わる彼女の温かな体温が、鼻の奥をツンと刺激する。
「じゃあ、約束……しよ?」
「当たり前だよ…!」
差し出した私の小指に、食い気味に彼女の細い指が絡められる。
その強引なまでの優しさに、視界が滲んで、私は泣きそうになるのを必死に堪えて顔をほころばせた。
「……あのね、藤沼さんに渡したいものがあるの」
私はそう告げると、藤沼さんから少し身を引き、彼女の死角になる背後で制服の裾に指をかけた。
微かな呪力を指先に宿し、糸を解いていく。
そして私の呪力を分け与えて編んだ、祈りを込めた即席の"御守り"を作り上げる。
「これ、手首とか足首に付けておくとね、願いが叶うんだって。
……これが切れないうちは、私のこと、忘れられないかなって思って」
「無くたって絶対に忘れないけど……本当に、もらっていいの?」
私が深く頷くと、藤沼さんはそれを宝物のように両手で包み込み、「ありがとう!」と弾けるような満面の笑みを浮かべた。