第8章 百鬼夜行の、その最中※
笑った顔も、怒った顔も、泣き顔も。
人間のものと何一つ変わらない。
それなのに、ナマエは真っ当な"人間"には成り得ない。
術式の使い方を制限したところで、
ナマエの身体は既に呪物に侵食され、組織ごと作り替えられている。
(あー………、知りたくなかった。知ってたけど)
目が良すぎる、というのも考えものだ。
ナマエが"人ではない何か"であるという事実を自らに突きつけられながら、今日まで気付かないふりをして愛でてきた。
その欺瞞からようやく解放されたというのに、自分の目が、直感が、いかに正しかったかを改めて思い知らされて、笑えてしまうほど気分が悪かった。
「…あの日、あの村で回収された特級呪霊── 姦姦蛇螺 (カンカンダラ) の肉体部分。
そこにあるはずの小指の第一関節部分は、未だ見つかっておりません」
伊地知の声が、一段と低く部屋に響いた。
バラバラに散らばっていたパズルのピースが、耳障りな音を立てて嵌まっていく幻聴が聞こえる。
「………それをナマエの母親が、あの子がお腹に居る時に取り込み───ナマエの方が受肉した」
「…はい。恐らく」
母親が取り込み、腹の中の子が受肉。
聞いたこともない事例だけど、これまでの自己犠牲的なナマエの言動を思い出す限り、有り得なくもない話か。
蛇螺(ダラ)は半人半霊の呪霊。
祓われても尚、肉体部分はこの世に留まり続ける。
母親が取り込んだのが小指の第一関節という極めて微量な部位だったことを踏まえれば、
僕の目が、あの子を完全な"受肉体"だと断定できなかったことにも納得がいった。