第8章 百鬼夜行の、その最中※
ナマエの遺伝子と、九相図の母親の遺伝子が、完全一致。
ナマエの体内には、人には有り得ない塩基配列が存在し───呪物を取り込んでいる可能性が極めて高い。
要約するとこんな感じだろう。
…分かっていたことだ。
ナマエの肉体に備わった術式が、ただの人間に扱える代物ではないということを。
気づいていながら、僕はあえて踏み込まなかった。
"親子"という生ぬるい関係に甘んじて、その裏に潜む悍ましい事実から目を逸らそうとしていたんだ。
だからこそ、"家系調査"を指定して硝子に依頼した。
あの子がただの「突然変異で生まれた鬼才」であるという"ありふれた奇跡"に、どこかで安心したかったから。
「……あくまで高専内部で照合できる資料と、家入さんの所見を合わせた結果です。
家入さん自身も、正式な鑑定ではないから…と」
「そういうのいいから」
冷淡に遮った僕の声に、伊地知の肩がびくりと跳ねる。
僕はソファに深く身を沈めたまま、包帯を解いた蒼い瞳で、窓の外に広がる曇り空を仰ぎ見た。
「ナマエの中に何か歪な物が混じってたのは、
あの日、お前があの子を抱き上げた時から気づいてたし」
脳裏に、あの日の光景が鮮明に蘇った。
古びた鳥居の先で、真っ赤な血の海に横たわる小さな身体。
六眼が捉えた少女は、全身から異質で異常な呪力を放っていた。
ヒトの呪力とは一線を画すその呪力を、術式を視た瞬間から、
ナマエが"人間として生きられない可能性"を孕んだ存在だということを、僕は残酷なまでに理解していた。